【2025最新作】映画『ルノワール』解説・感想|鈴木唯が魅せる“少女のまなざし”と家族の物語

カンヌ国際映画祭正式出品、日本・フランス共同製作の感動作。主演・鈴木唯が映し出す「子どもが大人を見つめる視点」とは?
🎬 映画『ルノワール』(2025)作品概要
- 原題:Renoir(ルノワール)
- 監督・脚本:早川千絵
- 製作:水野詠子、Jason Gray、Christophe Bruncher、Fran Borgia ほか
- 撮影:浦田秀穂
- 編集:Anne Klotz
- 音楽:Rémi Boubal
- 製作国:日本、フランス、シンガポール、フィリピン、インドネシア
- 公開日:2025年6月20日
- 上映時間:116分
- ジャンル:青春・家族ドラマ
🧑👧👦 登場人物・キャスト
- 鈴木唯:沖田フキ(主人公・11歳の少女)
- 石田ひかり:沖田詩子(母)
- リリー・フランキー:沖田圭司(父)
- 河合優実:北久理子(フキと出会う大人)
- 中島歩:御前崎透
- 坂東龍汰:濱野薫
- Hana Hope:Kate
- Jeffrey Low:Jerry
- ほか出演:高梨琴乃、西原亜希、谷川昭一朗、宮下今日子、中村恩恵
📝 あらすじ
1980年代後半の東京郊外。11歳の少女・沖田フキは、重病を抱える優しい父と、仕事に追われる母のもとで夏を過ごしていた。
家庭に寂しさを感じながらも、フキは日々の中でさまざまな大人と出会い、言葉にならない感情を抱えていく。
少女の目を通して描かれる、大人の“痛み”と“あたたかさ”。
それはやがて、フキ自身の心に小さな変化をもたらしていく――。
🌟 解説・評価ポイント
✔ なぜ“80年代後半”なのか?
本作の舞台が1980年代という時代設定であることには大きな意味があります。スマートフォンやSNSが存在しなかった時代、人と人との距離感や、家族の中で交わされる言葉の“密度”が、今とはまったく異なっていたからです。
フキはその“間”に揺れる少女です。母は仕事、父は病を抱え、でも誰もが彼女の心を完全に受け止めきれない。そんな時代背景だからこそ、言葉にできない“孤独”や“違和感”が画面から静かに滲み出てくるのです。
✔ 監督・早川千絵が描く「子ども視点のリアル」
『PLAN 75』で老いと制度を描いた早川監督が、本作で選んだのは「少女のまなざし」でした。彼女は、社会の構造や制度の外側にある“個人の感情”を描くのが非常に巧みな作家です。
フキの視線は常に揺れ動き、問いかけます。「なぜお母さんは優しくないの?」「お父さんは死んじゃうの?」。この問いに明確な答えは返ってきません。でも、それがリアルです。子どもが世界を理解しようとする過程が、ありのまま映像として提示されます。
✔ 親になること/子どもであることの難しさ
フキと母・詩子の関係は、今の時代を生きる多くの親子にとっても、他人事ではないリアリティを孕んでいます。
忙しくて“いい母親”になりきれないこと、病と向き合う中で愛し方が分からなくなること、そうした大人たちの不完全さを、フキの目は見逃しません。
しかし、それは責めるまなざしではなく、「理解したい」というまなざし。
この映画が感動的なのは、“小さな理解”がやがて“受け入れ”へと変わっていく、その過程を丁寧に描いているからです。
✔ 海外からの評価と日本映画の新たな地平
本作はカンヌ国際映画祭コンペティション部門という大舞台でプレミア上映され、6分間のスタンディングオベーションを受けました。
派手な演出も、劇的な展開もないにもかかわらず、観客の心を深く動かす――それは“感情の余白”を信じる日本映画の美学そのものです。
監督・早川千絵は、今や是枝裕和、濱口竜介に続く“世界が注目する日本の作家”として確かな位置を築きつつあります。
🎥 撮影秘話・裏話
鈴木唯は馬の鳴き真似が特技
オーディションでは自然体の演技と共に特技を披露し、現場でも愛される存在に。
監督が“一目惚れ”で主演決定
何百人の中から鈴木唯を即決。フキそのものだったという。
80年代の日本を丁寧に再現
小道具や衣装、団地の風景など、時代考証にもこだわりが見られる。
🧠 感想・レビュー
『ルノワール』は、決して“わかりやすく感動する映画”ではありません。
でも、じっと見つめていると、ある瞬間に胸の奥がふと熱くなる――そんな作品です。
少女の目線で描かれる大人たちの苦悩、言葉にされないまま流れていく日常、団地の風、蝉の声、台所の湯気……。
それらがすべて“フキの心の記録”として美しく映像に刻まれています。
映画を観終わったとき、きっとあなたの中にも“あの頃の気持ち”がよみがえるでしょう。
「大人ってなんで怒ってるんだろう?」「私はこの家でどうやって生きていくんだろう?」
そんな問いを持った経験がある人には、間違いなく刺さる作品です。
鈴木唯の演技は、演技を超えて“そのままの存在”です。だからこそ、彼女が抱く小さな感情が、私たちにとってもまるで自分自身のもののように感じられる。
これは、家族映画であり、少女の成長譚であり、そして誰にとっても“人生の一コマ”を思い出させてくれる物語なのです。
✅ まとめ
- ✔ 鈴木唯が魅せる少女のリアルな揺らぎ
- ✔ 早川千絵が描く「大人と子どものあわい」
- ✔ 国際映画祭で絶賛された映像美と余韻
『ルノワール』は静かながら確かな余韻を残す“心の映画”です。まだ観ていない方も、観終えた方も、この映画が問いかける「誰かを想うこと」の意味をもう一度感じてみてください。
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